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チェルノブイリ事故における甲状腺癌と、日本における管理基準

福島原発事故は、IAEAの区分でレベル6であることが明らか(海外機関の見解の場合)となり、放射能の放出量によってはチェルノブイリのレベル7に至る可能性までが指摘されはじめている。そうなると、私たちの印象としては、チェルノブイリ・クラスの被害がこれから生じてくるのではないか、という危惧を持たざるを得なくなっている。そのような恐怖や不安を煽るメディアも多くなってきている。

チェルノブイリ事故における具体的な被害と言うのは、将来ガンで亡くなる人は4000人であると予測(チェルノブイリ・フォーラム、2005年、IAEA)されていたり、小児・若年の甲状腺癌が20年で5000例近く発症したと報告(長崎大学医学部・山下俊一教授)されていることであり、恐怖や不安に煽られた私たちはこうした被害を想起せざるを得ないのである。

しかし、一方で、4000人というのはあくまで推定に過ぎないし、除染作業の被曝管理のずさんさや、住民に事実が隠されてきたということを考えれば、(日本はチェルノブイリとは違うのだから、そういうことは起りえないだろう)とも考えられ、(それほどの懸念は無いだろう)とも信じたいのである。

――『これらの労働者は受けた放射線量を計測するための個人線量計を装着していなかった。それゆえ専門家は彼らの被曝線量を推定するしかなかった。線量計が使われていた場合でも、測定手順はまちまちだった。・・・』(Wikipedia「チェルノブイリ原子力発電所事故」)

――『一九八六年四月に起きたチェルノブイリ事故では、ソ連の情報隠匿により周辺住民の避難が遅れ、被害が拡大した。』(東京新聞「元チェルノブイリ技師 映像公開遅さ批判」、2011年3月19日)

上記のチェルノブイリ・フォーラム(IAEA)によると、(こうした管理上の被害を受けた)除染作業者が24万人、避難住民が12万人、避難勧告地域住民が27万人(計約60万人)であり、それぞれの被曝線量はそれぞれ100mSv、33mSv、50mSvとされている。(環境経済学講義「原子力(参考資料 1) チェルノブイリ事故の教訓」 (朴勝俊)がチェルノブイリ・フォーラムより引用したものより。)

こうしたことが日本では起らない(日本では政府と行政によって適切な管理が行われるはずだ)と考えたとき、むしろ日本での心配は、子ども達への甲状腺癌リスクのほうであろう。つまり、チェルノブイリ事故では小児・若年の甲状腺癌が20年で5000例近く発症したという事実(上記)のほうである。

しかし、これについても、チェルノブイリでは、牛乳や野菜の経口摂取の管理が不十分であったことや、当時は慢性的なヨウ素欠乏があったことを考えるならば、(政府と行政によって適切な管理が行われる限り、)日本では起りえないことであるようにも思えるのである。つまり、放射性ヨウ素の半減期は8日、完全に崩壊するのも数ヶ月とも言われており、日本政府と行政による、初期の管理がしっかりと出来れば、経口摂取による問題は回避できるように思えるのである。

――『・・・甲状腺被曝を低減するするため、安定ヨウ素剤を住民にすみやかに投与する必要があったが、実施時期が遅れたためヨウ素剤投与の効果は小さかった。また、牛乳や葉菜の摂取制限も遅れた・・・』(原子力資料情報室通信No.258、1995年11月、ベラルーシ保健省・放射線医学研究所「チェルノブイリ事故による内部被曝と防護対策の有効性」、Y.ケーニグスベルグ、E.ブグロワ)

チェルノブイリ事故で甲状腺癌を発症した5000例について、この子達がどれだけの被曝を受けていたかの正確なデータが入手できなかった。参考になるものとしては、以下のような数値がある。

・ロシア・カルーガ州の甲状腺中ヨウ素 131被曝量のメディアン値(子ども)・・・30ミリグレイ
 (ロシア医学アカデミー・医学放射能研究センター)

・チェルノブイリ事故における避難民12万人の甲状腺への平均線量(1986年)・・・490ミリグレイ
・うち3歳以下の小児の甲状腺被ばくの平均値・・・1000ミリシーベルト
 (放医研・丹羽太貫「チ ルノブイリ事故による健康影響(に関する最新の検討)」)

・ベラルーシ・ゴメル地区の子ども3400人の甲状腺への放射性ヨウ素による被曝・・・2000ミリシーベルト
 (河田東海夫・原子力発電環境整備機構・フェロー「放射性ヨウ素と小児の甲状腺ガン」)

もっとも保守的に、安全に、子ども達を守ろうとするならば、甲状腺への被曝について30ミリグレイを超えないように、政府・行政が管理する必要があると思う。現在の国の基準については、ヨウ素については、新聞記事などを参照すると以下のように設定、管理されている。

・水道水・・・300ベクレル/キロ
・牛乳・乳製品・・・300ベクレル/キロ
・野菜・・・2000ベクレル/キロ
・肉、卵、魚・・・基準なし(セシウムはある)
・空気中濃度限度・・・1000ベクレル/m3
 (排気中濃度限度・・・0.005ベクレル/m3)

「排気中濃度限度」は、特に15日の一番酷いときに軽く超えてしまっているので、他の暫定値と同じように「空気中濃度限度」で管理されざるを得ないだろう。

それぞれの基準についての被曝量を、仮に期間を3ヶ月間として(原発の事故処理が短期で終了し、放射性ヨウ素の放出が収まり、大部分が崩壊すると仮定して)、計算すると以下のようになる。

・水道水については、水道水の基準(300ベクレル/キロ)×摂取量(1リットル/日)×摂取日数(90日)×幼児の経口摂取の実効線量係数(7.5×10^-5ミリシーベルト/ベクレル)=2.0ミリシーベルト
・牛乳・乳製品については、牛乳・乳製品の基準(300ベクレル/キロ)×摂取量(0.5キロ/日)×摂取日数(90日)×幼児の経口摂取の実効線量係数(7.5×10^-5ミリシーベルト/ベクレル)=1.0ミリシーベルト
・野菜については、野菜の基準(2000ベクレル/キロ)×摂取量(0.5キロ/日)×摂取日数(90日)×幼児の経口摂取の実効線量係数(2.2×10^-5ミリシーベルト/ベクレル)=6.8ミリシーベルト
・大気については、空気中濃度限度(1000ベクレル/m3)×五歳の呼吸量(8.72m3/日)×呼吸日数(90日)×幼児の吸入摂取の実効線量係数(6.9×10^-5ミリシーベルト/ベクレル)=54ミリシーベルト (ただし屋外に居た場合であり、屋内退避すればもっと小さくなる)

大気については、現実にはここまで高い濃度ではないし(15日に一時的に高くなっただけであると思われ)、屋内退避でかなり避けられる。したがって、これらの基準がしっかりと管理されて運用される限りは、チェルノブイリ事故であったような惨劇(甲状腺癌に限る)は避けられるように思う。政府・行政は、これらの基準がしっかりと管理、運用されるよう徹底して頂きたいと思う。

テーマ : ほっとけない原発震災
ジャンル : 政治・経済

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「実効線量」と「等価線量(甲状腺)」

甲状腺に対する被曝について色々と調べているうちに、「実効線量」と「等価線量(甲状腺)」という二つの係数が公開されていることを知り、しかもその数値に大きな開きがあることに気づき、どきりとした。あまりにも数値が違いすぎており、乳児や幼児が1年間に被曝する量が大きく違ってしまっていたからである。

同じ懸念をある方がお持ちになって、ある先生に尋ねたそうです。
「六号通り診療所所長のブログ」、http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2011-03-26
非常に勉強になると同時に、安心しました。

こんな詳しい解説は初めて見ました。少し安心しました。今回のパニックは完全に政府の情報発信不足に起因していますね。
ありがとうございます。
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Y. Fukasawa

Author:Y. Fukasawa
近年は、バブル崩壊、失われた10年、グローバル金融経済の拡大、金融崩壊、中国の大国化という激動の時代でした。自分も含めて、多くの企業に属する経営者や会社員は、政治と経済の構造とダイナミクスをより一層深く知るべきことを認識したのではないかと思います。最近、その政治・経済分析については、新聞・雑誌に書いている評論家よりも市井のブログ家の方がレベルが高いように思います。自分も多くのブログ家と同じく一介のサラリーマンでしかありませんが、先輩ブログ家達に負けないように「学習」を重ねていきたいと思います。